職場ハラスメント(パワハラ、モラハラ、職場いじめ、問題上司)の対処法

ハラスメントに人権問題をとおして取り組むマツダ

『マツダは本気で「人権」でクルマを売ることを考えています』

mazdalogo講演直前の打ち合わせの席で、こうおっしゃられたのは、マツダ株式会社人事担当の神田常務(当時)でした。少し唖然としている私に対して、こう付け加えられました。

『営業部には営業部の、製造部には製造部の、クルマを売る戦略がありますが、人事部では、人権問題にきちんと取り組むことが、クルマを売る戦略だと信じているからです』

日経新聞などを読んでいると、こういうことを語る経営者は多いのですが、実際に取り組んでいるかは、非常に「?」が多いのが実情です。コンプライアンス(法令順守)を声高に叫ぶ経営者の裏で、「社長はコンプライアンスというが、全く不正をしないで利益は出せるものではない」として、廃ガス装置のデータ虚偽を指示していた経営幹部がいた三井物産などの例は枚挙に暇がありません。

今回、講演の依頼から実施にかけて、私がマツダにものすごく感心したことが3つありました。

mazda1つは、この講演会へ参加を「義務づけた」のは、役員を含めた経営幹部(課長職以上)約600名であること。1つは、そのような重大な講演会を、30代半ばのコンサルタント(私)に依頼したこと。もう1つは、劇的な効果は期待せずに、着実な前進を目指していること、です。

実際、広島市内のマツダ本社での講演会には、社長は出張でどうしても参加できなったものの、会長、専務、常務、本部長といった経営トップが顔を揃えられていました(一番前の席で)。その後ろに、部長、課長クラスが、600人並んでいる中での講演は、本当に緊張しましたが・・・。

私への講演報酬は、マツダにとっては大したことはないと思いますが、講演会の準備にかかる人件費や、参加した経営幹部の人件費は、それこそ何百万円にも上ったはずです。これを年に2回行っているそうです。人権問題にこれだけの注力している会社が、日本にあるでしょうか?

また、講演依頼を受けて、マツダの担当者と打ち合わせをした際に、「ひと回りも年齢が講演会参加者の方に、(えてして説教になりがちな)いじめ問題について、私のような30代半ばの人間が、話しをするのはどうか?」と正直に質問したところ、担当者からは、『マツダでは、もう年齢や性別にこだわらない。きちんとした知識や情報を持っていれば関係ない」という返事がありました。また、同じような言葉が、講演直前に、役員の口からも聞くことになりました。

マツダが人権問題に真剣に取り組むようになったのは、1999年、フォードからマーク・フィールズ社長(当時38歳)が派遣され、フィールズ社長が、社内の人権問題への取組意識の低さに気づき、人権意識向上の大号令をかけたことがはじまりだそうです。フィールズ元社長は、先日の新聞記事によると、フォード本社で北米地区の責任者になるなど、若くしてフォード本社内での地位も固めつつあるようで、やはり「先見の明」がある方なのでしょう。

しかし、会社の規模が大きければ大きいほど、舵取りが難しいのが現実です。経営トップの大号令や、ある一つの対策だけで、社内全体の意識が一気に切り替わるほど、簡単なものではありません。特に、「人権」という複雑な問題に関してはなおさらです。マツダでも、数万人規模の社員がいる中で、どのように人権意識を高めていくかは、本当に難しい取組のはずです。

神田常務からは、『この講演会で社内の人権意識が著しく向上することは期待していない。このような取り組みを通して、少しずつ文化として根付かせることが大切なことを十分に理解している』というコメントがありました。

私は、人事コンサルタントとして企業との付き合いの中で、多くの経営者や担当者が、人権問題やメンタルヘルス問題に関しては、企画や準備に時間をかけすぎていて、挙句に、即効的な効果は期待できないと、実際に足を踏み出せないケースを何度も目撃しています。ですから、正直、このコメントに非常に感服しました。とにかく前に進むことが大事である、ということを有言実行されているからです。

マツダで製造しているものは、クルマです。クルマは、人々の暮らしを楽しく、快適に、便利にすることができますが、同時に、人々の暮らしから、楽しみや幸せを奪う、走る凶器となることもあります。

DSCF1818そのような商品を世の中に送り出している企業において、もし「人間的価値の否定」が当たり前のように行われている、もしくはみて見ぬふりがされているのであれば、消費者はどう捉えるでしょうか?人間的価値を尊重しない会社が製造したクルマに、消費者は安心して乗ることができるでしょうか?

大規模なリコール隠しで大問題となっている企業の例をあげることもなく、答えは明白でしょう。振り返ると、その会社が、アメリカで、組織的なセクシュアルハラスメントを行ったことで、50億円近くもの和解金を支払わされていたことは、決して偶然ではないでしょう。

いじめを受けている社員は、間違いなく、生産性が落ちます。人間的価値を認められていない社員は、それを敏感に感じ取り、自尊心をなくしていきます。自尊心をなくせばモチベーションも低下します。そうなると仕事に熱が入らないだけでなく、集中力も低下し、ミスをするのも当然なのです。

「人権」でクルマを売るというマツダの本気度が伝わる興味深い事例でしたので、紹介させて頂きました。尚、講演内容はこんな感じで行いました。丁度90分の講演でした。

『人を大切にすること/職場のいじめ問題をとおして』
– 職場のいじめの本質
– 職場のいじめの方法と実態
– 職場のいじめが増加している背景
– 職場のいじめ/3つのタイプ
– 被害者の心理
– 職場のいじめの代償
– 共感力が職場のいじめを激減させる

※講師費用は10万円(税・交通費・日当別)からです。詳細については、本サイト上のフォームか、電話(03-5443-2861)でお問い合わせください。


社会保険

2010年5月号から12回連載しました